コラム

巡回指導対策 指導教育(高齢運転者と事故惹起運転者)

巡回指導の指導員が確認するポイントについて

前回、行政処分にかかる違反で2番目に多い教育等の違反であるとお伝えいたしました。

教育の対象は一般運転者(特定運転者以外の運転者)と特定運転者(初任運転者、高齢運転者(65歳以上)、事故惹起運転者)ですが、前回特定運転者の一つである初任運転者の指導教育についてお伝えしましたので、今回は高齢運転者と事故惹起運転者の指導教育についてお伝えいたします。

高齢運転者の場合も「貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針」(平成13 年国土交通省告示第1366号)に基づき指導教育を実施しなければなりません。

指針によると、まず本人に適齢診断(高齢運転者のための適性診断)を受診してもらい、「その結果を踏まえ、個々の運転者の加齢に伴う身体機能の変化の程度に応じた事業用自動車の安全な運転方法について運転者が考えるように指導する」とあります。

高齢運転者の指導教育適齢診断の結果が判明した後1か月以内に実施しなければなりません。

高齢運転者の指導教育ではきめ細かな指導の実施が求められています。

高齢運転者が加齢に伴う身体機能の変化を自覚することにより、運転者が事業用自動車の運行の安全を確保するための知識の充実並びに技能及び運転行動の改善を図ることができるよう、適齢診断の結果判明した当該運転者の運転行動の特性も踏まえ、当該運転者と話し合いをしつつきめ細かな指導を実施することが必要です。

この場合において、当該運転者が気づかない技能、知識又は運転行動に関する問題点があれば、運転者としてのプライドを傷つけないように配慮しつつこれを指摘することが必要であり、さらに、指導の終了時に、運転者により安全な運転についての心構え等についてのレポートを作成させるなどして、指導の効果を確認することが望ましいとされています。

なお、適齢診断は65才に達した日以後1年以内(65才以上の者を新たに運転者として選任した場合には、選任の日から1年以内)に1回受診させ、その後3年以内ごとに1回受診させなければなりません。

もちろん、適齢診断受診の都度、特別教育を実施する必要があります。

適齢診断についても特別教育についても実施していなければ違反となり、行政処分(車両停止処分)の対象となります。

なお、運転者として新たに雇い入れた者が65才以上である場合には、適齢診断を受診させたことをもって、初任診断とみなして差し支えないとされています。

つまり、65歳以上の運転者が入社した場合は、初任診断ではなく、適齢診断を受診してくださいということです。

次に事故惹起運転者に対する指導教育についてお伝えいたします。
死者または重傷者を生じるような重大事故を引き起こした運転者には特別な指導教育をしなければなりません。

事故惹起者への教育は、原則、再度事業用自動車に乗務する前に、やむを得ない場合には再度乗務を開始した後1か月以内に下記①~⑤の項目について合計6時間以上実施し、加えて⑥「安全運転の実技」を可能な限り実施することが望ましいとされています。

指導項目

① 事業用自動車の運行の安全の確保に関する法令
② 交通事故の事例の分析に基づく再発防止策を指導する。
③ 交通事故に関わる運転者の生理的及び心理的要因及びこれらへの対処方法を指導する。
④ 交通事故を防止するために留意すべき事項を指導する。
⑤ 危険の予測及び回避を指導する。
⑥ 安全運転の実技を指導する。

上記①から⑥の内容をもう少し具体的にお伝えいたします。

① 事業用自動車の運行の安全の確保に関する法令

「事業用自動車の運行の安全を確保するため貨物自動車運送事業法その他の法令等に基づき運転者が遵守すべき事項を再確認させる。」

法律上遵守しなければならないことが遵守できていなかったために事故が発生することがほとんどですので、遵守すべき内容を再確認するということです

これは、一般運転者に対する指導教育12項目マニュアルの中の「(2)事業用自動車の運行の安全を確保するために遵守すべき基本的事項」がこれにあたります。

指導教育12項目マニュアルはこちら→

② 交通事故の事例の分析に基づく再発防止策を指導する。

「交通事故の事例の分析を行い、その要因となった運転行動上の問題点を把握させるとともに、事故の再発を防止するために必要な事項を理解させる。」

これは、まさに当該事故が起きた運転行動からくる原因の究明と、具体的な再発防止策を本人と話し合いながら策定するということです。

再発防止策は、単に「今後気をつける」などという抽象的な防止策ではなく、客観的にできたかどうかを判断できる具体的行動に落とし込むことがポイントとなります。

行動できたかどうか判断出来る具体的再発防止策とは、例えばバック事故が起きたならば、「バック時は必ず降車して、後部を目視して安全確認する」などいった具体的防止策です。

また、二度と痛ましい事故が起きないように全社で事故防止を進めていくためには、事故原因と再発防止策を運転者全員に周知させるのが効果的です。

③ 交通事故に関わる運転者の生理的及び心理的要因及びこれらへの対処方法を指導する。

「交通事故を引き起こすおそれのある運転者の生理的及び心理的要因を理解させるとともに、これらの要因が事故につながらないようにするための対処方法を指導する。」

生理的要因とは、長時間連続運転等による過労や、医薬品等の服用に伴い誘発される眠気や飲酒などです。

心理的要因とは慣れや、自分の運転技能への過信による集中力の欠如などです。

運転中に疲労や眠気を感じたときは運転を中止して、休憩するか、睡眠をとるように指導し、また、飲酒運転の撲滅の徹底を図ることが重要です。

これは、一般運転者に対する指導教育12項目マニュアルの中の「(10)交通事故に関わる運転者の生理的及び心理的要因及びこれらへの対処方法」がこれにあたります。

指導教育12項目マニュアルはこちら→

④ 交通事故を防止するために留意すべき事項を指導する。

「貨物自動車運送事業者の事業の態様及び運転者の乗務の状況等に応じて事業用自動車の運行の安全を確保するために留意すべき事項を指導する。」

これは、一口に貨物自動車運送事業といっても、運送する貨物によって、使用する車両の持つ特性も変わるなど、態様がさまざまであり、運転者ごとの乗務状況も個人差があるので、それを踏まえて、運行の安全を確保するための個別指導をして下さいということです。

⑤ 危険の予測及び回避を指導する。

「危険予知訓練の手法等を用いて、道路及び交通の状況に応じて交通事故につながるおそれのある危険を予測させ、それを回避するための運転方法等を運転者が自ら考えるよう指導する。」

人間には能力の限界があり、判断をするにも時間がかかります。
また、ブレーキ性能など車両の性能にも限界があります。

スピードを出して運転した時に物陰から何かが飛び出してきたとしても、とっさには停車できません。

ですから、事故を未然に防ぐには建物の陰の向こうから自転車や高齢者が飛び出してくるかもしれないという危険予知をして、その予測のもとにスピードを緩めたり、車間距離を取るなどの運転行動が必要となってくるのですが、改めてこれらのことについて指導を徹底することが求められています。

実際に危険予知トレーニングをすると、なお効果的です

これは、一般運転者に対する指導教育12項目マニュアルの中の
「(9)危険の予測及び回避並びに緊急時における対応方法」がこれにあたります。

指導教育12項目マニュアルはこちら→

    ⑥ 安全運転の実技を指導する。

「実際に事業用自動車を運転させ、道路及び交通の状況に応じた安全な運転方法を添乗等により指導する。」

これは、まさに①から⑤までに学んだことが、運転行動に反映されているかを確認することに他なりません。

以上が具体的な指導の内容です。

なお、初任運転者を入社した際に、運転記録証明により雇い入れる前の事故歴を把握して、事故惹起運転者に該当するか否かを確認することになっています。

確認の結果、当該運転者が事故惹起者に該当した場合であって、上記の事故惹起者の特別教育を受けていない場合は、特別教育を行わなければなりません。

また、事故惹起者の適性診断についても受診していない場合は、受診させなければなりませんので、ご
注意ください。

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