コラム
運送業における就業規則

就業規則の一般的な内容は以前掲載のとおりですが、
少し振り返っておきますと、
・就業規則とは、いわば「会社のきまり」であるということ
・就業規則の作成・届出義務(労働者10人以上)
・就業規則に盛り込むべき内容(絶対的必要記載事項・相対的必要記載事項)
・法改正に対応できていない就業規則、ネット等の誤った情報に基づいて
作成された就業規則の危険性
などで、今回は、さらに深掘りした就業規則についてお伝えするとともに、
運送業における就業規則の重要性についてもご説明していきたいと思います。
(1)就業規則の位置づけ
賃金や労働時間等の具体的な労働条件は、以下によって定められます。
①労働契約(個々の労働者と会社(使用者)が結ぶ個別の契約のこと)
②就業規則
③労働協約(労働組合がある場合の、労働組合と会社(使用者)が締結
するもの。「労使協定」とは別のものです。)
これら3つで定められた労働条件は、違法なものでない限り、労働者、
そして会社の双方を拘束します。
ちなみに、これら3つと法令には、適用に優劣があります。その順番は、
(優) 法令 → 労働協約 → 就業規則 → 労働契約(劣)
となっています。下位の定めが上位の定めに抵触した場合、
原則、上位の定めが優先的に適用されるということです。
具体例を挙げてご説明します。
Aさん(労働組合には入っていないものとする)について、
1日の所定労働時間(会社が決めた労働時間のこと)が
「労働契約では8時間」「就業規則では7時間」と定められて
いたとします。
この場合、個別の労働契約よりも就業規則が優先されるので、
就業規則の規定が適用され、Aさんの所定労働時間は「7時間」と
なります。
このように、法的な位置づけという視点からみても、就業規則は
重要な意味を持つと言えます。
(2)就業規則、作って届出したらもう安心!?
答えは、「否」です。
就業規則は、「労働者に周知して初めて有効」となります。
いくら、「就業規則に書いてあるから」と会社が主張しても、
存在や内容を労働者が知ることができる状態でなかった場合、
その就業規則の規定は無効となる可能性があるということです。
実際にあった、就業規則の周知について争った裁判をご紹介します。
嘘のような本当の話なのですが、会社側はなんと、「就業規則は、
額縁に入れて掲示していた。だから、労働者に周知していたことになる。」
と主張したのです。
裁判所の判断は、「かなりの厚さ(本件では45枚あったそうです)の
あるものを、額縁で掲げるのは不自然」として会社の主張を退けました。
(普通に考えれば当然ですね(笑))
就業規則の規定が無効となると、どうなるか。例えば固定残業代制を
規定しているような場合で、これらに関する規定が無効と判断された場合、
多額の未払い残業代の支払が必要となる恐れがあります。
したがって、作成・届出だけでなく、労働者への周知がとても重要になります。
ちなみに、「周知」の方法としては、
①常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
②書面を労働者に交付すること
③磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、
各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
(③を簡単に言うと、PCにデータとして保存しておき、従業員がいつでも
見られるようにしておくことも認められている、ということです)
があります。
(3)運送業における就業規則の重要性
就業規則を作成する重要性、とりわけ運送業では、「『適切な賃金制度』を
作り、規定し、運用すること」が大切であると考えられます。
その大きな理由としては、現在運送業界では特に、
「未払い残業代請求が増えている」という背景があります。
「賃金規程がそもそもない」「あっても適法なものではない」
(例 労働時間に応じた割増賃金が支払われていない等)という状況では、
未払い残業代を請求されるリスクが高いと言えます。
このようなトラブルを未然に防ぐためにも、適切な就業規則を作成し、
運用することが大切です。
また、労働条件や服務規律、福利厚生等を明確にすることで、
従業員の方は安心して働くことができます。
その結果、業務改善や業績アップ等会社の繁栄にもつながっていく、
という意味においても就業規則は重要と言えるでしょう。