コラム
「被扶養配偶者の年収の壁」について

今回は、「被扶養配偶者の年収の壁」についてご紹介させて
頂きます。
1.130万円の壁
現在、サラリーマンの被扶養配偶者の年収が
130万円未満であれば、公的年金、医療保険
介護保険などの保険料が免除されますが、
年収がこの金額を超えると一人前の社会保険料の
納付を求められることになります。
そのため、パート就業の女性の年収調整に
苦心される状況を指して、「第3号被保険者の
130万円の壁」などといわれます。
また、所得税の課税対象となる年収103万円も
調整対象の一つとなっており、主婦の年収向上を
妨げる要因となっています。
事実、令和4年の『男女共同参画白書』によれば、
非正規雇用の女性の年収は149万円未満が全体の
約7割を占めています。
更に、2022年の『就業構造基本統計調査』でも、
非正規雇用女性の7割弱が、年収149万円未満で
就業調整を行う者の割合が、年収50万円~99万円
の階層で52%、100万円~149万円階層で
47%となり、前回調査(2017年)から
その割合は増加しているとのことです。
2.新たな106万円の壁
被扶養配偶者の社会保険料は、夫の負担で
賄われていると誤解される方も多いと思いますが、
実際には、単身者や夫婦共働き世帯の負担によって
ようやく賄われているのが実情です。
そこで、保険料収入の増加を目的として、週の
労働時間が20時間以上で、月間収入8.8万円以上
(年間では約106万円)の短時間雇用者についても
一定規模以上の事業主に対しては、被用者保険加入が
義務付けられました。
2016年10月の施行当初は、501人以上の
規模の企業が対象でしたが、2022年10月には
101人以上に範囲が広げられ、2024年10月
からは51人以上の企業へと更に拡大されることに
なります。
つまり、この年間収入106万円が新たな壁として
加わることになったのです。
3.パート社員の低賃金に変化
被扶養配偶者の保険料免除は、「主婦に対する保護」
といわれる一方で、事業者にとっては、社会保険料を
払わずに低賃金で労働力を確保できるうえに、
主婦自身が低賃金を快く受け入れてくれるのですから
申し分ない制度といえるかもしれません。
では、短時間雇用者の被用者年金への加入は本当に
主婦の生活を圧迫することになるのでしょうか。
2016年以降に対象となった501人以上規模の
企業に勤める短時間雇用者の被用者保険への加入
状況をみると、年々加入者は増加傾向にあり、
2016年に最も人数が多かった9.8万円の標準報酬
月額は、2020年には11万円~13万円の
レンジへと移行し、15万円~20万円の高収入者も
増加する結果となりました。
やはり、就業調整をする必要がなくなったことが
主婦自身の就業意欲を高めると同時に、事業主の
雇用に対する考え方にも良い影響を及ぼしたのかも
しれません。
こうしてみると、106万円の壁は思いのほか低く、
政府の取組は、短時間雇用者の賃金上昇に貢献した
だけでなく、働き甲斐のある職場形成にも大いに
役立っているのかもしれません。
4.最後に
「100人以下の企業では、130万円の壁を超えた
場合でも2年間の猶予を!」「101人以上の企業が
保険料を立替えた場合には、補助金を!」といった
暫定的な政府の施策が公表されていますが、大切なのは
2025年の年金制度の改革内容ではないか、との
見方もあり、今後も政府の動向を注視していく必要が
ありそうです。