コラム

年金財政について

今回は「年金財政」についてご紹介いたします。

1.財政検証

令和6年7月3日、厚生労働省は、公的年金
財政状況の健全性を検討する5年に1度の
財政検証」の結果を、社会保障審議会・
年金部会に報告しました。

それによりますと、5年前(令和元年)より
年金財政は改善しており、将来の給付水準が、
以前の予測よりも上昇するとの見通しである
ことが分かりました。

女性や高齢者の労働参加が予想以上に
進んだことに加え、積立金の運用が想定を
超えて順調に推移したことが要因と
みられます。

厚生労働省では、財政検証の結果を踏まえ、
年末に向けて年金制度の改正審議を進めて
いくことになります。

2.基礎年金の給付水準低下

財政検証は、今後の人口動向労働参加状況
生産性賃金の上昇といった一連の経済
指標をもとに、将来の年金財政の見通しを
立てて、マクロ経済スライドによる給付水準
調整終了年度(年金財政において給付と
保険料を始めとする収入が均衡する年度)の
給付水準を検討するというものです。

そこで、不確かな将来への見通しを、より
正確なものとするため、複数の経済前提を
もとに幅広い試算が行われます。

今般の財政検証では、経済が成長する
2種類のケースのほか、現状を維持する
ケース、低成長を仮定したケースの4つの
シナリオが設定されました。

また、年金の給付水準は、現役男性の平均
手取り収入額に対する「会社員と専業主婦の
世帯年金額
(モデル年金)」の比率である
所得代替率』で示されますが、50%
一つの目安となっています。

財政検証の結果を簡単にご説明すると、
経済成長を前提とする上位2つのシナリオでは、
早ければ2037年度に調整が終了し、
その際の所得代替率は56~57%となる
見通しです。

令和元年の成長シナリオでは、調整終了年度が
2047年で、所得代替率が50~51%
であったため、調整期間が10年短縮され、
給付水準も5%程度上昇が見込まれる結果と
なりました。

また、現状を維持するケースでも、令和元年の
シナリオでは所得代替率が50%を下回って
いるのに対し、令和6年の見通しは50.4%と、
原則的な目安となる50%を維持する結果と
なっています。

他方、いずれのシナリオでも、基礎年金の
調整期間が長くなっており(給付に対し、
収入が十分でない)、基礎年金のみの受給世帯
(自営業者等)の低年金問題が顕在化する
こととなりました。

3.若年世代ほど年金額が増加

今回の財政検証では、従来のモデル年金の
年金額に加え、初めての試みとして、
各世代の65歳時点における老齢年金の
平均額や分布の見通し(年金額の分布推計)を
作成したのも特徴の一つと言えます。

年金額の分布推計をみると、労働参加の
進展に伴う厚生年金の被保険者期間の延伸、
及び、実質賃金の上昇により、若年世代ほど
平均年金額が増加
しており、特に、女性の
平均年金額
伸びが顕著なものとなっています。

4.保険料拠出期間の延長見送り

今後、年金部会において、財政検証の結果を
踏まえた制度改正審議が進められていきますが、
<1>被用者保険の適用拡大、<2>マクロ経済スライド
による調整期間の一致、<3>標準報酬月額上限
見直し
、など将来の給付水準上昇に寄与することが、
しっかり検証されたようです。

その一方、現行40年の基礎年金の保険料
拠出期間
(20~59歳)を、5年間延長して、
45年(20~64歳)にするとのでは、
将来の給付水準上昇への寄与は認められ
ましたが、厚生労働省は、財政状況に
改善がみられる中、保険料の負担増に対する
国民の理解を得られないとして、今回の改正では、
保険料拠出期間の延長は見送られることと
なりました。

早くも、本年10月より、被用者保険の
適用拡大
等が始まって参りますので、
政府の制度変更には、漏れなく対応できるよう
注視していきたいと存じます。

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