コラム
賃金デジタル払い
今回は「賃金デジタル払い」について
ご紹介いたします。
1.賃金デジタル払いとは
賃金デジタル払いとは、企業が労働者の賃金を
キャッシュレス決済サービスなどで提供する
「資金移動業者」(第二種)の口座に支払う
ことを言います。
労働基準法では、労働者の賃金は通貨(現金)
で支払うことを原則としていますが、例外規定
として、従来、①銀行その他の金融機関の預金、
又は、貯金への振り込み、②金融商品取引業者の
預り金(証券総合口座)への払い込み、の
いずれかにより支払うことが認められていました。
そして、2023年4月に施行された改正労働
基準法施行規則によって、③資金移動業者の口座への
支払いが新たに追加されることになったのです。
賃金デジタル払いを取り扱う事業者は、事前に
「労働者保護」や「当局への報告体制」等に関する
所定の要件を満たした上で、厚生労働大臣の指定を
受けなければなりません。
しかも、他の例外規定と異なり、賃金デジタル
払いを取り扱う第二種資金移動業者の口座には、
100万円の上限設定があるため、上限を超えた
場合の資金移動先として、預貯金口座をあらかじめ
指定しておく必要があるのです。
そもそも、賃金デジタル払いの議論は、日本で働く
外国人労働者などが、銀行口座を開設しなくても
賃金を受け取りやすい金融環境を整備するための
施策として進められてきただけに、結果として、
銀行その他の金融機関の口座開設が必須となった
ことは、残念というほかありません。
2.時間を要する大臣指定
厚生労働省は、2024年8月9日、賃金デジタル
払いを取り扱う事業者として初めてPayPay
株式会社を指定しました。
改正労働基準法施行規則が施行された当初は、
事業者が大臣の指定を受けて賃金デジタル払いの
サービスを開始するまでに半年程度の期間を
要するとの見方がなされていましたが、実際に
PayPay株式会社が指定を受けるまでに
要した期間は、想定を大きく上回る1年5カ月にも
及びました。
尚、同社によりますと、国内で最初の賃金デジタル
払いは2024年9月25日に実施されたとの
ことです。
3.賃金デジタル払いのメリット
賃金デジタル払いの労働者にとってのメリット
としては、先ず、普段利用しているキャッシュレス
決済サービス口座で賃金を受け取ることにより、
チャージ(入金)する手間が省けるという点が
挙げられます。
また、銀行口座は貯蓄用、賃金デジタル払いは
日常生活用と、支払い分をそれぞれ指定し、
使い分けることで、計画的な運用を行えることも
メリットの一つと言えるかもしれません。
更に、受取日を柔軟に選べる可能性があり、
そうなれば、日払いのアルバイト賃金を
従来よりも迅速に受け取ることができるなどの
利点もありそうです。
一方で、現在のキャッシュレス決済サービスでは、
スマートフォンを操作すれば簡単にチャージ
できるものが多く、仮に、クレジットカード経由で
チャージできるものであれば、ポイントが付与
されるといった金銭的メリットが存在するため、
最大のメリットとして挙げられる「チャージの
手間が省ける」という恩恵も、多くの人にとっては、
さほど魅力的でないかもしれません。
しかも、資金移動業者の口座では預金金利が付与
されないということも留意しておく必要があります。
いくら低金利時代とは言え、今後、日銀の利上げ
により預金利息が増えようものなら、デジタル払い
の魅力が損なわれ、利用希望者の減少に繋がり
かねないのです。
次に、企業側にとっての賃金デジタル払いの
メリットですが、第一に、給与の振込手数料を抑えて
全体コストの削減を図れることが挙げられます。
現在、PayPay株式会社は、企業がPayPay
銀行に法人口座を開設し、その口座から賃金デジタル
払いを行うと給与振込手数料が無料になるという
特典を提供しており、一般的に、資金移動業者の方が
銀行よりも振込手数料が安くなると考えられています。
また、キャッシュレス決済サービスの利用割合の高い
若い世代の人材確保にも効果がある!との思いがある
ようです。
とは言え、賃金支払い方法が増えることで、新たに
必要となるシステム対応コストなどを勘案すると、
企業全体のコスト削減効果はあまり大きくないとの
見方ができそうです。
政府の肝いり始まった賃金デジタル払いのシステム
ですが、なかなかメリットを見出せないのが実情です。
今後、どのように社会に浸透していくのか見守って
いきたいと思います。