コラム

安全衛生法の改正

今回は、「安全衛生法の改正」についてご紹介
いたします。

1.熱中症対策

1月27日厚生労働省は、職場における熱中症
対策の強化を目的に、事業者に罰則付きで対応を
義務付ける方針を示しました。

熱中症による死亡災害は令和4年から2年連続で
30人を超え
、令和6年もそれを上回るペースで
発生していたため、実効性のある対策が急務と
されていました。

事業者に求められるのは、熱中症を疑われる者が
確認された場合の、➀報告体制の整備と重篤化
させない
ための必要な措置、➁それら措置の実施
手順
の作成、③あらかじめ関係労働者に周知する、
の3点となります。

義務の対象となるのは、「WBGT(暑さ指数)
28度以上、又は、気温31度以上の環境下で、
連続1時間以上、又は、1日4時間以上の実施が
見込まれる作業」を行わせる事業者で、業種や
作業内容、屋内外などは問われません。

建設業、警備業などのほか、外勤などの営業職
対象となる可能性があり、同省では、労働安全
衛生規則を改正し、今夏に間に合うよう令和7年
6月
の施行を目指すとしています。

同省の分析では、熱中症による死亡災害の殆どが、
初期症状の放置対応の遅れが原因とされており、
可能な限り早期に熱中症が疑われる者を発見し、
暑熱作業からの離脱身体冷却医療機関への
搬送
などの対応を図り、熱中症を重篤化させない
ことが、死亡災害の防止に繋がるとしています。

そこで、これら必要な措置の実施手順の参考例
幅広く示したうえで、事業者に現場の実態に即した
具体的な対応手順を作成させ、関係労働者への
周知
を求めることになります。

同様に、報告体制の整備に関しても、連絡先や
担当者を事業場ごとに定めるほか、緊急連絡網
緊急搬送先の連絡先及び所在地等の周知も必要と
なります。

2.ストレスチェック制度

厚生労働省が1月27日、全ての事業場にストレス
チェック制度
の実施を義務付ける改正などを盛り
込んだ「労働安全衛生法、及び、作業環境測定法の
一部を改正する法律案要綱」を労働政策審議会
諮問し、同日に答申を得たことを受け、政府は、
通常国会に同法律案を提出するようです。

ストレスチェック制度は、労働者のメンタル
ヘルスの不調を未然に防止するための措置として、
平成27年12月から労働者数50人以上
事業場に対して実施を義務付けているものです。

一方で、労働者のプライバシー保護等の観点から、
産業医の選任義務のない労働者50人未満
事業場に対しては、当分の間、努力義務とする
特例が法律の附則に規定されていました。

同省によりますと、50人未満の事業場における
ストレスチェックの実施割合は令和5年時点
34.6%にとどまっています。

今回の法律案では、この附則の特例を廃止し、
すべての事業場にストレスチェック制度を義務
付ける
としています。

また、施行日は、公布日から起算して3年
超えない範囲内において、政令で定める日と
されています。

尚、労働者数50人未満の事業場の負担軽減を
図るため、労働基準監督署に対する実施結果の
報告義務は課さないとのことで、また、労働者の
プライバシー保護の観点から外部委託を推奨する
とのことです。

3.個人事業者等の災害報告制度

個人事業者等に対する安全衛生対策の強化も
今回の法案の柱の一つになっています。

令和3年5月の建設アスベスト訴訟の最高裁
判決において、安衛法の一部規程は、労働者
だけでなく、同じ場所で働く労働者以外の
者も保護
する趣旨であるとの判断がなされ、
これまでは省令や指針の改正などで対策が
講じられてきました。

本法律案では、個人事業者を「労働者を使用
せず事業を行う者」と定義した上で、個人
事業者等の業務上災害に関する報告制度を
創設するとしています。

これまで個人事業者等の業務上災害を網羅的に
把握する仕組みがありませんでしたが、
労働者死傷病報告書を参考に、注文者等
報告主体として、遅滞なく労働基準監督署への
報告が求められることになります。

具体的には、個人事業者等が休業4日以上
災害に被災した場合、直近上位の注文者
対して報告義務を課すというものです。

尚、本法律の施行は令和9年1月1日予定
されています。

ご紹介したものはあくまでも法案ベースの
話しで、中小事業主の負担増となることが
明らかなため、必ずしも、施行されるかは
不透明ですが、労働者の方が安心して働ける
職場づくりには、労使双方が協力し合って
取り組んでいければと願うばかりです。

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