コラム

懲戒免職処分の取消訴訟

今回は、「懲戒免職処分の取消訴訟」について
ご紹介いたします。

1.訴訟の争点

運賃の着服等を理由とする懲戒免職処分
を受け、退職金が全額不支給とされた
京都市営バスの元運転手が、処分の取消を
求めて訴訟を起こし、最高裁まで判決が
もつれた事例となります。

最高裁で争点となったのは、運賃の着服や、
車内での電子タバコの使用(喫煙類似行為)
といった非違行為の内容や程度に比べて、
退職金を全額不支給とした京都市の処分が、
社会観念上著しく妥当性を欠いて、裁量権の
範囲を逸脱し、また、これを濫用したものと
解されるかどうかという点でした。

尚、原審(大阪高裁)は、着服行為の
被害金額が1,000円と少額であり、
既に、その被害弁償が行われていることや、
元運転手が約29年間に渡って勤続し、
その間、一般服務や公金等の取り扱いを
理由とする懲戒処分を受けていない
(常習性がない)ことなどから、退職金を
全額不支給とする京都市の処分は、裁量権の
範囲を逸脱した違法なものであると判断し、
同懲戒免職処分に係る元運転手の取消請求を
認容していました。

2.懲戒処分の経緯

裁判記録によりますと、元運転手は、
平成5年3月頃、京都市交通局の職員
として採用され、同年4月から京都市が
経営する自動車運送事業のバスの
運転手として勤務を開始しました。

事件が起こったのは、令和4年2月11日の
勤務中のことです。

乗客から5人分の運賃として受け取った
合計1,150円の金額のうち、一部を
売上金として処理せず、着服してしまった
というのです。

また、京都市はバス車内における
電子タバコの使用を禁止しておりましたが、
元運転手は、令和4年2月11日~17日の
乗務に際し、乗客がいない停車中のバスの
運転席において、計5回に亘り、電子タバコ
を使用していたのです。

こうした非違行為がバスのドライブレコーダー
で発覚することになり、元運転手は、上司
からの面談を受けることになりました。

当初、喫煙類似行為をしたことは認めたものの、
着服行為は否定していました。

しかし、上司からの指摘を受けるうちに、
着服についても認めるに至ったのです。

京都市は、令和4年3月2日、非違行為を
理由として、元運転手を懲戒免職処分とし、
退職手当支給規程に照らして退職手当等
(1,211万円)を支給しないとの処分を
下しました。

3.退職手当支給規程(要約)

退職者が、懲戒免職処分を受けて
退職した者に該当するときは、管理者は、
退職者に対し、退職者の職務及び責任、
勤務の状況、行った非違行為の内容及び程度、
非違に至った経緯、非違後における言動、
非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度、
並びに、公務に対する信頼に及ぼす影響を
勘案して、退職に係る一般の退職手当等の
全部または一部を支給しないこととする
処分を行うことができる。

4.最高裁の判決

最高裁の判決では、バスの運転手は
乗客から直接運賃を受領し得る立場にあり、
通常1人での乗務となることから、
職務の性質上、運賃の適正な取り扱いが
強く求められており、本件の着服行為は
重大な非違行為であると認定されました。

また、そうした行為は、京都市が経営する
自動車運送事業の適正な運営を害するのみ
ならず、事業に対する信頼を大きく損なう
ものであるとも断じました。

更に、喫煙類似行為についても、乗務中にも
関わらず、週5回も電子タバコを使用して
おり、勤務状況が良好でないと評価されても
やむを得ないとしています。

加えて、非違行為が発覚した後の上司との
面談の際にも、当初は着服行為を否認しよう
とするなど、誠実な態度であったとは
言えないと指摘しました。

これらの事情に照らし合わせれば、
たとえ着服行為の被害金額が1,000円で
既に弁済されていることや、約29年間の
勤続年数があることを斟酌しても、
退職金の全額を不支給とした京都市の処分が、
社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権の
範囲を逸脱し、これを濫用したものという
ことはできないと判示し、元運転手の処分の
取消の訴えを退けたのです。

感覚的には、非常に厳しい判決のように
思われますが、ちょっとした出来心が
自身の人生を損なうようなことにも
なりかねませんので、仕事と向き合う際は、
誠心誠意対応するよう心掛けていきたいと
思います。

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